注意: 詳細レビューは執筆中で、随時追記しています。ひとまず総評まで読んでいってください。
レビューする私の立場
私はHHKB Studioの購入者です。 特にどこからか提供や依頼を受けてのレビューではありません。
またHHKBの従来品の愛用者でした。 初期のHHKB Professionalから始まり、 Pro 2、Type-S、HYBRID Type-Sまで色違いや予備品も含めて 合計7台を所有しています。
加えて2020年末より自作キーボードに傾倒しました。 短期間で大量のキットを組み立てたり、 自ら回路を設計したり、 ファームウェアを書き起こしたり、 あのKeyballシリーズのファームウェアを担当したり と 自作キーボードとポインティングデバイスに関する一定以上の知見を持っています。
現在ではHHKBのレイアウトを模したキーボードを自作し愛用しています。 つまり私は従来のHHKBと自作キーボードへの造詣が深いため、 その両方の特徴を持つHHKB Studioについて、 伝えるべき価値のあるレビューができるのではないかと本記事を書き始めました。
特徴的な手持ちの60%キーボードを。左上から、現役で自作のYUIOP60HH5、下へ行ってHHKB Pro2にDolch Orange、Pro 2の墨に雪キーキャップ、右上に行ってHybrid Type-Sに公式カラーキートップ(無印字)、Pro 2 Type-Sにカラーキートップ、最後はRP2040を使った自作のYUIOP60Pi pic.twitter.com/JIUrH72QlM
— MURAOKA Taro (@kaoriya) December 24, 2022
ポインティングデバイスの使用遍歴にも触れておきましょう。 現在はマウスのロジクール MX Anywhere 3を使用しています。 いわゆるトラックポイントはThinkPadから始まり、VAIO Type-Pで深く体験しています。
本レビューは私が行ったHHKB Studioの開封ライブ配信(下記)で得た情報、 及びその後の考察した内容から構成されています。
さぁレビューを始めていきましょう。
TL;DR 総評
詳細をレビューしていくにあたって、 自作キーボードの用語やキーボードのハードウェア・ソフトウェアの構造について、 ちょくちょく説明を挟んでいきます。 なので長くなります。 とても読んでいられないと思った方はココだけでも読んでから帰ってください。
HHKB Studioは…
- 日本円で44,000円という価格は、キーボードの値段の絶対値として高すぎます。 HHKBシリーズ自体が高価格帯であることは議論の余地がありません。 広義のプログラマーというニッチが納得できるストーリー(静電容量スイッチを含む)を提供することで、 その高価格を成立させているのがHHKBというブランドです。
- 超高品質・高級なメカニカルキーボードです。 この品質に到達している市販の競合品は存在しないといっても過言ではないでしょう。 自作キーボードで同じ性能・品質を出そうとすれば、とてもこの価格では実現できません。 どの程度の人数がここまでの品質を必要とするのかとの疑問が生じるほどです。
- タイプ感は極上といって差し支えありません。 この極上感はキースイッチとキーキャップの性能・品質が極めて高いことに起因します。 しかし静電容量スイッチの感触とは大きく異なります。 敢えて似ている要素を見出すならばキーの押し始めの重さと、キーを押し切った時の感触だけです。
- キースイッチのホットスワップでは標準的なCherry MXスイッチとその互換品を利用できます。 ポインティングデバイスの部品に切り欠き加工があるため、大半のMXスイッチが利用できるでしょう。 ただし非サイレント品を使うとタイプの残響音が気になる可能性があります。
- キーキャップは肉厚で加工精度も良好です。 ガタツキも歪みも無いため、タイプ時に余計な音を生じず、極上のタイプ感に寄与しています。 ポインティングデバイスがあることで、市販の互換キーキャップは未加工では使えません。
- ポインティングデバイスには可も不可もありません。 ポインティングデバイスとしては過不足なく機能します。 使いにくさもありますが、それはこのタイプのポインティングデバイス自体が時代遅れなのであって、 本機が手を抜いたというわけではありません。
- マウスボタン用のキーにも妥協がありません。 キースイッチの選定、ケースと合わせたキーキャップの形状および加工、 選択肢が限られる中で極限まで他の箇所とのバランスを追及していると言えます。
- ジェスチャーパッドはよくやっています。 基本性能は極めてしっかりしていますし、誤動作を防ぐように考えられています。 しかしmacのタッチパッドを基準にすると不満が生じるでしょう。 これには本機だけのせいとは言い切れない事情が存在します。
- ソフトウェアはよくできていますが十分ではありません。 日本の過去のハードウェア設定ソフトウェアに比べれば洗練され、隔世の感があります。 しかし世界的な設定ソフトウェアと比べると説明不足である点が多く、 また設定できないことも多くガッカリしてしまうかもしれません。
- 無線機能および電池による運用は試しておらず、レビューできません。 別の方のレビューに譲ります。 ただ単三電池4本の直列という選択肢は興味深いです。
総評の最後にHHKB Studioを買うべきか、どんな人が買うべきか、成功するのかという点について触れておきます。
まず一般人は買うべきではありません。 なによりも単純に高すぎます。 また盛り込まれた高度な設計思想や実現された品質に気が付くことはないでしょう。 逆に言えばそれほどまでの完成度の高さとも言えます。
キーボードに一定以上、おそらく自作キーボードを作って好みの感触にチューンした経験を持つほどの情熱を注げる人は、触ってみる価値があります。 買う価値があるかは現在の情熱次第というところでしょうか。 一つ言えるのは、20年を超えるHHKBブランドを築き上げたPFUが、 自身の存在意義に徹底的に向き合ってキーボードのトレンドをキャッチアップし、 ブランドに見合った機能と品質で世に送り出したキーボードである、ことは間違いありません。 このストーリーに納得した人は買うべきです。
最後に「成功するのか」という難しい点です。 ただ重要なのは「夜中0時発売開始から12時間経たずに初回ロットが完売した」という事実です。 これを「需要予測を見誤ったから成功ではない」と評することは、私にはできません。
HHKB StudioのAmazonでの販売ページ(Amazonアフィリエイトリンク)も参照してください。
詳細レビュー (執筆中、随時追記予定)
さぁやっとで詳細レビュー本編です。
価格について
日本円で44,000円という値段は、日本人の一般感覚からすると、 キーボードにかける金額として絶対的に高すぎます。 それを否定することはできません。
比較の一例としてUP-MKGA75を挙げます。 このUP-MKGA75は、 数か月前にゲーミング用途でハイスペック・高品質なメカニカルキーボードを探している際に店頭で触れてみて「これならば」ということで、 実際に購入に至った品物です。 こちらはヨドバシカメラで25,580円でした。
HHBK Studioは約18,000円も高価ということで、その価値がどこにあるというのでしょうか。 MKGA75には綺麗に光る1こと、 ガスケットマウント2であること、 多色整形のキーキャップ3、 HHKB Studioには存在しないこれらの要素があることを考えると、 その価格差は額面以上にあるとも言えます。
それを説明しうるのが1996年から27年続くHHKBというブランド≒信頼です。 HHKBと言えば東プレの静電容量無接点スイッチ(以下ECスイッチ)が代名詞になっています4。 その一方で「馬の鞍」のメタファーを担いで、 キーボードというUIにお金をかけることを正当化してきたことでも知られています。 このECスイッチと馬の鞍がHHKBという高価なブランドを成立させ牽引してきたストーリーの両輪です。
しかしながらHHKB Studioでは、そのストーリーの片方であるECスイッチを捨て去ってしまいました。 それによってメカニカルキーボードを知らない従来ファンにとっては、 よりいっそう割高に見えていることは間違いありません。 プロモーションを見ていると、 弱くなったストーリーをアメリカでのデザインをはじめ、 別のモノで補おうとしている印象も受けます5。
しかし自作キーボードを通じて、 メカニカルスイッチやECスイッチを取り扱ったことがある自分からすれば、 もはやECスイッチにはストーリーを維持できるほどの魅力は無いと言えます。 逆にHHKB Studioに触れたことで、 「馬の鞍」のストーリーを補強するためにも、 ホットスワップ6可能なメカニカルスイッチを採用したのは英断だった と確信しています。 詳細は後述します。
メカニカルキーボード
HHKBがメカニカルキースイッチを採用したのはStudioが初製品となります。 HHKB StudioがECスイッチを採用しなかったことを嘆く人が散見されますが、 私はこの英断を賞賛します。 自分は自作キーボードでメカニカルスイッチを深く知る7ほどに、 従来品のECスイッチに不満を募らせていきました。 その結果、特定のメカニカルスイッチ(Everglide Dark Jade)を使いたいがために、 HHKB互換レイアウトの自作キーボードを設計から始めて常用するに至っています。 以下ではメカニカルスイッチ(以下キースイッチと表記する場合あり)とECスイッチの長所と短所を挙げていきます。
メカニカルスイッチの最大の長所はその選択肢の多さ、つまり多様性です。 ここでいう多様性とは、突き詰めれば押し心地、タイプ感に帰着します。 タイプ感は大きく分けてリニア、タクタイル、クリッキー、静音リニア、静音タクタイルの5種類に分けられます8。 加えて押す時の重さや、押した距離に応じた反発力の変化、軸とハウジングの摩擦などタイプ感に影響を与える要素は多岐にわたります。 そういったパラメーターの異なるキースイッチ製品が大量に存在します。
タイプ感の好みは人によってまったく異なります。 さらに用途に応じて最適なタイプ感は異なります。 一般論としてタイプミスが許されるゲームであれば少ない力で素早く入力できるリニアが向きますし、 資料などを見ながらキーボードも画面も見ずに正確にタイピングするのであれば押した確かな手ごたえのあるタクタイルが向きます。 手ごたえに代えて音のフィードバックを好む場合はクリッキーを選択することになるでしょう。 Studioが採用したホットスワップ機構、ハンダ付けをせずにキースイッチを交換できる、であれば ユーザーが自分の用途と好みに応じたタイプ感のキースイッチを選択して交換できます9。
従来のHHKBのECスイッチは、ざっくりいえばType-Sを含めてもタクタイルと言えます。 プログラマー向けということで、最適と言われるタクタイル1種類だったと考えられます。 またキーの重さは永らく1種類でした。 比較的軽くなったType-Sの登場によりいまでは2種類という解釈になります。 タイプ感の選択肢がメカニカルスイッチと比較すると極端に狭いのです。
ここで「馬の鞍」のメタファーを思い出しましょう。 馬が死んでも鞍だけは持ち帰るほど大事な鞍を、 自分の体形や好みや使い方に合わせてカスタマイズしないなんていうことがあるでしょうか? 革製の鞍は使ってるうちに体形や使い方に合わせて形を変えます。 ならば最初から自身の使い方に合わせて加工して当然と考えられます。 だとすれば選択肢の少なさは「馬の鞍」のストーリーと競合してしまう短所です。
ECスイッチに対する私のもう1つの大きな不満は、キーキャップと軸の構造・精度の甘さから発生する、雑音です。 従来のHHKBが手元にあったら、静かな場所で耳を澄ませ、キーの上に指を力を入れずに置いてみてください。 また置いたキーの上で指を前後左右に少し力を入れてみましょう。僅かにブレることでしょう。 このとき押してもいないのに僅かな「カチャ」という音が聞こえませんでしたか? これはスイッチのハウジングと軸とキーキャップの構造・加工精度で発生してしまう音です。 東プレのECスイッチは構造上このブレが大きく、音が出やすくなっています。 メカニカルスイッチにも同様のブレは存在しますが、 前述の多様性として提供される選択肢の中にはこのブレを低減した製品が複数存在します。 なお自作キーボード上級者10達の間では、このブレは短所とされています。
ECスイッチの最大の長所は耐久性です。 物理的なコンタクト(接触箇所)がないために極めて故障しにくいのです。 一方でメカニカルスイッチは製造不良で当初から動かなかったり、使っているうちにあっという間に機能しなくなるものもあります。 もちろん経年劣化により不具合を生じるまでの期間・耐用回数も、ECスイッチに比べれば短く少ないですが、耐用回数が大きな製品も増えています。 さらにホットスワップ対応のメカニカルスイッチは、壊れたスイッチを1個単位で交換できます。 つまりキースイッチの壊れやすさは短所ですが、交換可能という別の長所で十分に補えます。
一方で使用による経年劣化はECスイッチにも存在します。 長年使用していると内部のラバードームが劣化し反発力が低下していきます。 普通は新品と比較することなどありませんし、微妙な差なので気が付きにくいですが、気になりだすとタイプミスの原因にもなるほどの差です。 このような時にECスイッチの1個だけを修理・交換するのは、技術的には可能11ですがコストは極めて高くつきます。 このようにECスイッチの長所は別の短所となってもいます12。
メカニカルスイッチの代表的な短所とされるチャタリングについても触れておきましょう。 チャタリングには狭義のチャタリングと広義のチャタリングがあります。 狭義のチャタリングは機械的な構造上不可避です。 しかし狭義のチャタリングはソフトウェア(ファームウェア)でフィルターでき、 いまのメカニカルキーボードのファームウェアでは実際にしています13。 フィルターできないほどの大きなチャタリングが発生するようになったら、 そのキースイッチは寿命です。交換しましょう。
広義のチャタリングはファームウェアのバグか通信経路のエラーであり、 メカニカルスイッチかECスイッチかの違いは発生に関係ありません。 ファームウェア起因であればアップデートを待ちましょう。 USB接続であればケーブルやハブなどが原因である可能性を検討しましょう。 Bluetooth接続であれば電波状況を改善しましょう。
HHKB Studioはメカニカルキーボードです。 ECスイッチに比べて長所も短所もありますが、多くの短所は別の長所やその他の要素でカバーできています。 加えてメカニカルであることで、キースイッチとキーキャップに選択肢を得ました。 その選択肢のおかげで 後述するようにキースイッチとキーキャップに対する並々ならぬ拘りで、 価格に見合わない14極上のタイプ感15を得るに至っています。 ゆえに私はHHKB Studioのメカニカルキーボード化を歓迎し賞賛します。
極上のタイプ感
(ゆっくり書き足していきます…)
キースイッチ
(ゆっくり書き足していきます…)
キーキャップ
(ゆっくり書き足していきます…)
ポインティングデバイス
(ゆっくり書き足していきます…)
マウスボタン
(ゆっくり書き足していきます…)
ジェスチャーパッド
(ゆっくり書き足していきます…)
設定ソフトウェア
(ゆっくり書き足していきます…)
その他
(ゆっくり書き足していきます…)
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キーボードが綺麗に光ることにはなんら戦略的優位性がない。暗い部屋で使って気分がアガるくらい。 ↩
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タイプ音が劇的に下がる仕組み。あと指に優しくなる。 ↩
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キーキャップが摩耗しても印字が消えない。金太郎飴のような原理。 ↩
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最初期のHHKBはメンブレンスイッチ。ECスイッチを採用したのは2003年のモデルから。 ↩
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もちろんそういうストーリーも購入の動機として重要ではある。 ↩
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ハンダ付け作業をせずにキーキャップを交換できること。 ↩
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ECスイッチを採用した自作キーボードキットも組み立て、仕組みを理解した。 ↩
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底付きの感覚が大きく変わるため、静音をあえて別種類としました。 ↩
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こだわる人であればキー毎に異なるキースイッチを選択する。 ↩
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頭の天辺まで沼に浸かってしまった廃人、のほうが正確かもしれない。 ↩
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実質不可能という意味。 ↩
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1個単位で交換可能なECスイッチも存在する。が、HHKBは採用していない。 ↩
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大きめのチャタリングでも5ミリ秒以内で収束することを利用する ↩
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既存の市販メカニカルキーボードや自作キーボードで同じことをするとトータルでもっと高くなる。 ↩
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極上ではあるが筆者の好むものではない。好き嫌いは別として良いモノは良い。 ↩